キャットちゃんの秘密
 今の家に引っ越した頃、近所のほとんどの家は犬か猫を飼っていることがわかった。私はその子たちに勝手に名前をつけて、散歩の時にはその名前で呼んで顔見知りになっていた。中でも、うちの庭にいつも遊びにくるのが、お隣の猫「キャットちゃん」だ。もちろん、私がつけた名前だ。ただ、猫を英語にしただけではあるが、その子の名前はどう考えても、キャットちゃんなのだった。

キャットちゃんは茶色と白のどこにでもいる日本猫で、よく庭に来ては、置きみやげをしていった。猫嫌いなら、文句の一言もいうのかもしれないが、うちは動物が好きなので、キャットちゃんの残していった小さな固形物すらも、ほほえましいと思っていた。

しかも、駐車場のコンクリートが固まる前に、キャットちゃんが見事にそこを歩いてくれたおかげで、あの猫特有のお花模様のような肉球の足跡がしっかりと残った。それも、可愛いじゃないかと、私たちは笑って過ごしていた。

車にはときどき、キャットちゃんのどろんこの足跡が点々とついていて、それもキャットちゃんがいかに自由を満喫しているかの証しのようで、うちの猫のように外に出したことがないのと違う大胆さに驚いたりもした。

キャットちゃんは昼間は外にいるが、夜になると家に入れてもらって寝ているらしい。ときどき道路を横切ったり、車の下から突然出てきたりするので、ドキッとさせられるが、よく無事に迷子にもならずにちゃんと家にかえってくるものだと感心していた。

キャットちゃんのなわばりは、かなり広いらしく、何軒か先の奥さんが、茶色と白の猫がうちの庭で糞をして困ると嘆いているのを耳にして、あんなところまで遠征しているなんて凄いな、と私たちを唸らせた。

こうして次第に我が家でも近所でも有名になっていったキャットちゃんだったが、ある日その飼い主であるお隣の奥さんと話をすることができた。話題は当然キャットちゃんのことだ。奥さんはキャットちゃんの自由奔放さにやや恐縮した様子だった。

「うちのズーちゃんとミーちゃんがいつもお庭におじゃましてすみません」
「は?」
「大きい方が図々しいからズーちゃんで、小さい方は…」
「ちょ、ちょっと待ってください。2匹いるんですかぁ?」
「ええ、実は3匹いたんですけどね、兄弟なんです。引っ越したときに一匹は前の家についてしまって、来たのは2匹だけなんです」

ちょっと待ってくれ〜。うちの庭に来ていたのは、じゃあ、2匹の猫がとっかえひっかえ来ていたのか、とそのとき初めて知ったのだった。2匹を同時に見たことがなかった。キャットちゃんは実は2匹のきょうだい猫だったのだ。その話をしてから、少しして初めて2匹のキャットちゃんがのんびりと隣の家のエアコンの室外機の上に寝そべっているのを見た。たしかに、やや大きいのと、やや小さいのと、そっくりな模様の猫が2匹…。ああ、キャットちゃんは2匹いたのだった。

いまだに、私はどっちの猫もキャットちゃんとひそかに呼んでいる。本当は、区別がつかないだけなのだが…。  (2002.05.06)